最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)798号 判決
上告人(原告) 中村忠吾
被上告人(被告) 竜野喜四郎
一、主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
二、理 由
上告代理人小田泰三、同吉森富三郎の上告理由は別紙記載のとおりである。
上告理由第一点について。
論旨は、本件トラツクは公職選挙法一四一条の「主として選挙運動のために使用される自動車」に該当し、同法一九七条一項三号の「公職の候補者が乗用する船車馬」に該らないというのである。
右一四一条は主として選挙運動のために使用される自動車等の数を制限した規定であるが、同条が本件のような村長選挙に適用のないことは法文上明白である。また同法一九七条は選挙運動費用に関する規定であり、本来一四一条とは関係のない規定であるが、たゞ右一九七条一項三号但書及二項は、一四一条の制限内の自動車の費用について選挙の種類により運動費用に加えるべき場合と除外すべき場合を規定しているにすぎない。しかし、これらの規定はいずれも村長選挙以外の選挙に関する規定であつて、村長選挙については船車馬に関して右一九七条一項三号本文の適用があるのみである。もとより村長選挙について同法一四一条の適用のないことは、村長選挙の運動に自動車を使用できない趣旨ではなく、又使用した以上、選挙運動費用に加えるべきことも当然である。しかし村長選挙にも前記一九七条一項三号本文が適用される以上、候補者の乗用する自動車の費用は選挙運動費用に加える必要はない。本件の場合、訴外角竜友久等は被上告人のためトラツクを使用して選挙運動をしたのであるから、本来から言えば、その費用は被上告人の選挙運動費用に加えるべきではあるが、後述するように、右角竜等は被上告人と意思の連絡なく運動をしたのであるから、その費用は同法一九七条一項二号により費用中に加えることはできないのである。もつとも原判決の確定するところによれば、被上告人は数時間これに乗車し投票を得る目的をもつて挨拶をなす等選挙運動をしたのであるから少くともその間は意思の連絡がなかつたとは言えないのであるが、其の間のトラツクの費用は、次に説明するように、前記一九七条一項三号により、候補者の乗用した車の費用であつて、これも被上告人の運動費用に加算することを要しないのである。本件トラツクのように本来選挙運動のために用いられている自動車はたまたま候補者が乗車したからと言つて、前記三号の自動車には該らないとする解釈も一応もつともとも考えられるけれども、もともと選挙に全く関係なく候補者が乗用する自動車の費用は右一九七条一項三号をまつまでもなく選挙運動費用に加えるべきものではないのであるから右条項で運動費用から除外しているのは、候補者が選挙運動のため乗用する自動車を指すものと解すべく、換言すれば、候補者が乗用している以上同時に選挙運動のために使用したからと言つて右三号の車に該らないとは言えないと考えられるのである。従つて原判決が、被上告人が本件トラツクに乗車した時間の車の費用も、被上告人の選挙運動費用に加算を要しないとしたのは正当であつて、論旨は理由がないものと言わなければならない。
同第二点について。
原判決が、訴外角竜友久等約一〇名が被上告人を支援するため、トラツク、拡声機を用いて運動をした事実に関し、被上告人と意思の連絡がなかつたものと認定したのに対し、論旨は右認定が違法であると主張するに帰するものである。
右は最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の適法な上告理由に当らないばかりでなく、原判決の挙示する証拠及び認定した各般の事実を綜合すれば、原判決が両者間に意志の連絡がなかつたものと認定したことは不合理とは認め難いから論旨は採用することができない。
同第三点について。
論旨は、和田村選挙管理委員会の発行した自動車使用許可書、自動車使用証明書等はことごとく候補者たる被上告人に対して与えれたものであることは記載の文言自体の明示するところであるというのであるが、本点も前点所掲の特例法律による適法な上告理由に当らない。のみならず所論各書類に被上告人の氏名が記載されていたからと言つて、直ちにこれをもつて被上告人と意思の連絡があつたものとは言えないことは勿論である。論旨はまた仮に原審の認定するとおりの事実としても第三者のした運動はこれを寄附と認めるべく、寄附による支出であつても選挙運動費用に加算すべきものであるというのであるが、これは要するに意思の連絡の有無に関する原審の事実認定を非難するものであるから、論旨はこれを採用することができない。
以上説明のとおり、本件上告に理由がないから棄却すべきものとし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人小田泰三、同吉森喜三郎の上告理由
第一点 原審は被上告人の選挙運動のために使われた貨物自動車の賃借料に相当する金額が当然に選挙運動に関する支出として加算せらるべきであるという上告人の主張を排斥し、その理由として「公職選挙法第百九十七条第一項第三号によれば、候補者が乗用する船車馬等のために要した費用は選挙運動に関する支出でないものとみなされているから、被上告人が本件トラツクに乗り運動をなしたからといつて、その乗車時間に対応する本件トラツク使用の利益を時価に見積つて選挙費用に加算することは許さず」と判示した。併し本件のトラツクが和田村の青年十数名を乗せこれに拡声機を備えつけて選挙運動のために出動した事実、及び昭和二十六年四月二十一日とその翌二十二日に亙り前後四回被上告人が右トラツクに乗車し、同乗の青年等と共に投票を得る目的を以て挨拶をして廻り、その正味乗車時間が約四時間に及ぶ事実は何れも原審の確定したところであつて、これによつてみれば該トラツクは同法第百四十一条に謂う所の主として選挙運動のために使用される自動車に該当し、同法第百九十七条第一項第三号で謂う候補者が乗用する船車馬等には該当しないことが明らかである。尤も同法第百九十七条第二項によれば、第百四十一条第一項の規定による自動車を使用するために要した支出もまた前項同様とすると規定して、主として選挙運動のために使用する自動車であつても、制限台数を超過しない限りは、この費用もまた選挙運動に関する支出でないものとみなしたが、右規定の適用があるのは衆議院議員、参議院議員、都道府県知事及び都道府県教育委員会委員の選挙に限るものであつて、本件のような村長選挙には適用がないから、右の規定によつても、トラツク費用を選挙運動に関する支出でないとみなすことはできない。
これを要するに原審は本件のトラツクが主として選挙運動に使用した自動車であつて、而もこれを候補者自身が選挙運動のために使用したものであるとの事実関係を認めて置きながら、これに対して候補者の乗用車馬に関する規定を捉え来つて律しようとする誤りを犯したばかりでなく、他に何れの規定を見ても選挙運動に関する支出の計算から除外される理由のないものを強いて除外した結果、判決理由の齟齬乃至は不備を来した違法があるものであつて破毀せらるべきものと信ずる。
第二点 原審は「角竜友久等約二十名の和田村青年有志は被上告人を支援することを申し合せ第三者として独自の立場で宣伝をなすため」に「昭和二十六年四月二十一日から翌二十二日に亙り」本件トラツク及び拡声機を使用して「第三者として選挙運動に従事したのであつて、その間被告候補者又はその出納責任者と何等意思の連絡がなかつた事実が認められ他に右認定を左右するに足る証拠はない」といい、トラツク費用も、拡声機使用料も意思の連絡がない第三者の運動費用であるから被上告人の選挙運動に関する支出に加算せらるべきではないとした。なお、原審は一方に於て、右両日中に被上告人が前後四回右トラツクに乗車し「右乗車中被告が同乗の青年と共に投票を得る目的を以て挨拶を為す等選挙運動をなしたことは」「これをうかがい知ることができる」ともいい、被上告人と青年有志とが、相携えてトラツクに乗り拡声機を通じて選挙民に呼び掛け、投票の勧誘をして村内を乗り廻した事実はこれを肯認した。
証拠の取捨や事実の認定は固より原審の専権に属するところであるが、その認定自体に矛盾があつたのでは判決理由を為さぬと思う。仮令青年有志等が独自の立場から第三者の選挙運動として発足したものであつたにせよ、その後に至つて候補者がその第三者の設備や方法を現実に利用し、相共に携えて選挙運動を行つた事実があるからには、少くともその時から後は、もはや両者の間に意思連絡のないものとはいえず、合流し、共同し合体した選挙運動を行つたことは、相互の意思に連絡が取り結ばれたからこその事であるといわねばならぬ。殊に選挙前日の四月二十二日の如きはトラツクを被上告人の選挙事務所につけて午前九時半頃候補者を乗せ、約二時間も村内各部落を巡り、更に同日午後二時頃又も選挙事務所から一里か一里半位の距離の青原部落まで同乗し、その途中で大いに宣伝に努め気勢を挙げたことは、原審がその供述を信憑した証人角竜友久の証言にある通りであつて、決して途上で偶然に遭つた候補者を同乗させたなどというような軽い意味のものではなく、態々選挙事務所に迎えに来て、そこから堂々と繰り出した事実さえある(原審記録一四九丁以下角竜友久調書十二項十九項)。原審は「前後四回乗車したのは事実であるが、その内四月二十二日午後の二回はその乗車時間も短かく殆んど運動と無関係であつた事実が認められる」といつたが、選挙運動と関係があつた事の最も明白な乗車時間二時間にも及び全村を殆んど一巡したであろう程の重要な点には殊更に説明を回避した風があり、強いて説明をしたといえばそれは「青年等の切々たる言動に動かされて不用意に同車した」ものであつて明示的にも黙示的にも意思の連絡はなかつたと、顧みて他をいうて片附けて仕舞つた。青年等の切々たる言動はと何を指すか明らかでないが、証人角竜友久の供述したように被上告人が「戸別訪問をした方がよいから乗らない」といつて一応断つたものを、「そんな事をいわずに是非乗つて呉れ」といつて無理に乗せたり、「一応看板だから乗つて呉れ、俺達許り歩いても駄目だから乗れ乗れ」といつて頻りに乗車を勧めたりした事実を指すものと思われる。青年等の勧めを被上告人が断り切れなかつたものとすれば或は有難迷惑であつたかも知れぬが、兎も角青年等の懇請を容れて同車し、選挙運動について一層の効果を挙げるために行動を共にし宣伝し放送し自己に対する投票の勧誘をして廻つた事実があるのに、これを切々たる言動に動かされた不用意な乗車として被上告人に無関係な第三者の運動と見ることは許されぬと思う。結局に於て原審は第三者と被上告人とが選挙運動のためにトラツク及び拡声機を共同使用さえもしたという厳たる事実を認めながら、両者には意思の連絡がないとし、この費用は選挙運動に関する支出に加算されぬものとなして、理由の不備不明の判決を言渡したものであるから破毀を免れない。
第三点 原審が真正に成立したと認める乙第二号証の一乃至三及び乙第三号証の一乃至五によれば、和田村選挙管理委員会が発行した自動車使用許可書、自動車使用証明書、拡声機使用許可書、拡声機使用証明書等はその悉くが候補者たる被上告人に対して与えられたものであつて、独自の立場で選挙運動をする第三者に対して与えられたものでない事は、記載の文言自体の明示するところであるのみならず、右の届出といい証明書の交付といい公職選挙法第百四十一条第二項以下の規定に則つて為されたものであろう事は推測するに難くない点からみても、第三者に対してではなく候補者に対して交付せられたものであることが判る。ただ、乙第三号証の一によれば実際に請求の衝に当つたものが角竜友久ではあつたが、選挙管理委員会が被上告人の名において、被上告人の選挙運動に使用するために右書類を発行したことは疑の余地がなく、原審の謂うように「第三者として独自の立場で宣伝をなすために」「和田村選挙管理委員会より使用許可を得て」選挙運動を始めたと認めるに足る証拠はない。併し、仮に原審の認定する通りの事実としても、第三者が自己の出捐負担を以て自動車及び拡声機を使用して候補者のために選挙運動をすることは取りも直さず出捐相当額の財産上の利益の供与即ち寄附である。寄附による支出であつても出納責任者の文書による承諾を必要とすると同時に、右支出も亦当然に候補者の選挙運動に関するものである限りは総てを選挙費用に合算せらるべきである事は法の明らかに規定する処である。被上告人は意思を通じない第三者独自の選挙運動であると称して法の盲点を衝いた積りではあろうが、右のような第三者の運動に対して嘗て自動車の無償提供の申出を受けた際に被上告人の選挙事務所は「寄附でも選挙費用に加算されるということと、村内では自動車で廻る程の必要はないという点からこれを断つた」事があり「既にこのことを知る」程の被上告人であれば角竜友久等の運動に対して当然に積極的に停述を止める筈であるのに敢てこの事をしなかつたのは暗黙に寄附の受諾があつたと認めるのが相当であるが、運動の停止要求どころか、自らこれに同調し大々的に宣伝して廻つて置きながら、これをしもなお、「明示的にも黙示的にも」意思の通じたものがなく寄附の受諾もなく、終始第三者の運動であつたといい得るであろうか、原判決はこの点においても理由不備の違法があつて破毀さるべきものであると信ずる。